【KSK2始動】2026年9月、国税庁システムが25年ぶり刷新。AI税務調査で「正直な会社」も指摘される時代へ

2026.07.31 / 税務

「うちは正直に申告しているから、税務調査なんて関係ない」——そう考えている社長ほど、一度立ち止まって知っておいてほしい変化があります。2026年(令和8年)9月、国税庁の基幹システムが約25年ぶりに全面刷新され、次世代国税総合管理システム「KSK2」が本格稼働します。

これは単なるシステムの入れ替えではありません。AIによる調査先の選定、税目をまたいだ矛盾の自動チェック、調査官が現場からリアルタイムでデータにアクセスできる仕組み——KSK2後の税務調査は「選ばれ方」も「調べられ方」も大きく変わります。しかも、その影響は脱税をしている会社だけでなく、まじめに申告しているつもりの中小企業にも及びます。

この記事では、そもそもKSK2とは何か、現行システムから何が変わるのか、そして中小企業の社長が今から備えておくべきことまでを、国税庁の公式資料を確認しながら整理します。

1そもそもKSK2とは?25年ぶりの基幹システム刷新

KSK(国税総合管理システム)は、国税庁・全国の国税局・税務署をネットワークで結び、納税者ごとの申告や納税の記録を一元管理する、税務行政の“背骨”ともいえる基幹システムです。現行KSKは2001年(平成13年)に全国展開が完了し、以来20年以上にわたって使われてきました。

しかし長年の制度改正への対応でシステムは複雑化・肥大化し、独自仕様の大型コンピュータ(メインフレーム)に依存する構造は、時代に合わなくなっていました。そこで国税庁は、税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の中核インフラとして、2026年(令和8年)9月にKSK2へ全面刷新することを進めています。

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ポイントKSK2の狙いは、ひとことで言えば「紙からデータへ、縦割りから横断へ」です。書面で提出された申告書もAI-OCRでデータ化し、電子申告と合わせてほぼすべての情報を蓄積・分析できるようにする——これが税務調査の精度を一段引き上げる土台になります。

2現行KSKと何が違う?6つの変化点

KSK2で何が変わるのか、現行KSKと比べると違いは鮮明です。特に社長に関係が深いのは、税目の「縦割り」が解消されること、調査官が調査先から直接システムに接続できるようになること、そしてAIによる分析が本格化することの3点です。

項目 現行システム(KSK) 次世代システム(KSK2)
データ管理の単位 税目別(所得税・法人税などが縦割り) 納税者単位で全税目を横断管理
外部からのアクセス 税務署内のみ(持ち出し不可) 調査先からリアルタイムで接続可能
システム基盤 独自OSのメインフレーム 汎用OSのオープンシステム
e-Taxとの関係 別システムとして都度連携 KSK2に統合
入力処理 紙の入力や一部のOCR AI-OCRによる自動データ化
データ活用 限定的な分析 AI・予測モデルによる高度な分析
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ここに注意「OCRでのデータ化なら今までもあったのでは?」と思われるかもしれません。そのとおりで、KSKの時代も紙の申告書は主要な項目がOCRや手入力でデータ化されていました。ただ、読み取りの対象や精度には限界があり、人手での再入力に頼る部分も残っていました。KSK2では、手書き文字まで認識するAI-OCRにより、書面提出の申告書もほぼ全件・全項目がデータ化され、AI分析の対象になります。「紙で出せば細かい数字までは見られない」という感覚は、完全に過去のものになると考えるべきです。

3税務調査の「選ばれ方」が変わる(AIによるターゲティング)

これまでの調査先選定は、KSKによる機械的な抽出に加え、調査官の経験や勘に頼る部分が少なくありませんでした。KSK2ではここにAIの予測モデルが本格的に組み込まれ、「申告漏れの可能性が高い納税者」をデータから高い精度で抽出するようになります。

この流れはすでに数字にも表れています。国税庁が公表した「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(本記事執筆時点の最新。調査事績は毎年12月頃に前事務年度分が公表されます)によると、AIを活用して調査必要度の高い法人を選定した結果、実地調査の件数はむしろ減っているにもかかわらず、法人税・消費税を合わせた追徴税額は3,407億円と、直近で高い水準を記録しました。個人の所得税でも追徴税額は1,431億円と過去最高を更新しています。注目すべきは、これがKSK2の本格稼働「前」の実績だということです。データ基盤がKSK2に切り替わり、蓄積される情報の量と質が上がれば、AI選定の精度はさらに高まっていくと考えるのが自然でしょう。

「調査件数は減っても、1件あたりの追徴額は増える」

ここが重要なポイントです。AIによる選定は、やみくもに調査を増やすのではなく、“当たり”の確率が高い先に絞って調査する方向に働きます。つまり、いったん調査対象に選ばれれば、何らかの指摘を受ける可能性は以前より高いということです。「調査が来にくくなった」と油断するのは危険で、実態は「選ばれたら逃げにくくなった」と考えるべきでしょう。

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ポイントAIが着目しやすいのは、同業他社と比べて不自然な数値や、年度による大きな変動利益率・原価率の異常などです。数字そのものが正しくても、説明のつかない変動があると「確認が必要な先」として浮かびやすくなります。

4税務調査の「調べられ方」が変わる(逃げ場の喪失)

選定だけでなく、調査そのものの進み方も変わります。KSK2の“横断管理”と“現場からの接続”が、調査の深さと速さを一段引き上げます。

変化のポイント 具体的に何が起きるか
税目間の自動照合 法人税申告の役員報酬と社長個人の所得税、会社の売上規模と代表者の生活実態の乖離などが、システム上で自動的に突き合わせられる。
現場での即時追及 調査官がタブレット等で調査現場から直接データベースに接続できるため、「署に持ち帰って確認します」という時間的な猶予がなくなる。
外部データとの連携 金融機関の情報、業界統計、登記情報など外部データと照合され、いわば外堀を埋めた状態で調査に臨まれる。

「税目をまたいだ矛盾」はこう見つかる——具体例

納税者単位での横断管理と聞いてもピンとこないかもしれませんが、具体例で考えると影響の大きさがわかります。

見つかりやすい「ちぐはぐ」の例 システムが照合するデータ
役員報酬をほとんど取っていないのに、社長個人が高額な住宅ローンを組んでいる・生活水準が高い 法人税申告(役員報酬)× 社長個人の所得税 × 金融機関・登記情報
生前は長年高所得だった被相続人なのに、申告された相続財産が不自然に少ない 被相続人の過去の所得税データ × 相続税申告。過去の所得の蓄積から金融資産の申告漏れが推定される
決算書の売上が1,000万円を超えているのに、消費税の申告がない 法人税申告(決算書)× 消費税の申告状況
外注費を多額に計上しているのに、支払調書や源泉徴収の記録と整合しない 法人税申告(外注費)× 法定調書・源泉所得税データ

特に相続の例は象徴的です。国税側には被相続人の何十年分もの所得データが蓄積されています。「これだけの所得があった方なら、これくらいの金融資産が残っているはず」という推定と申告内容が食い違えば、確認や調査の対象として浮上しやすくなります。これまで別々に管理されていた情報が一本につながる、というのがKSK2の本質的な怖さです。

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ここに注意誤解してほしくないのは、これは「不正を働いた会社」だけの話ではないということです。悪意がなくても、期ズレ(売上の計上時期のずれ)や、事業とプライベートの経費の線引きが曖昧なまま放置されていると、システムに「矛盾」として拾われ、説明を求められる場面が増えます。

5組織も変わる——内部事務のセンター化と調査へのシフト

KSK2の導入は、システムだけでなく税務署の“働き方”も変えます。全国の税務署が個別に行ってきた入力・審査・文書発送といった内部事務は、2021年7月から順次「業務センター」へ集約処理する体制へ移行しており、全税務署への展開が完了する見込みです。

実際、実務の現場でも変化を感じます。当事務所でも最近、税務署ではなく業務センターからの税金に関する確認の電話や文書が増えているという実感があります。「聞き慣れない部署から電話が来た」と驚く社長もいらっしゃいますが、業務センターは申告内容の確認などの内部事務を集約処理する正規の組織であり、納税者や税理士に電話・文書で連絡すること自体は制度上予定されたものです(ただし、不審な電話と区別するため、折り返し先や文書の発信元は必ず確認しましょう)。

この効率化で生まれた人員は、どこへ向かうのでしょうか。答えは明快で、税務調査や滞納整理といった「外部事務」へ重点的に振り向けられます。事務の自動化・集約で浮いた人手を、調査の充実に回す——これがKSK2時代の大きな流れです。

あわせて、納税者側にもデジタル対応が事実上求められるようになります。国税庁はe-Taxの利用拡大を強力に進めており、所得税申告のオンライン利用率について令和8年度に80%という目標を掲げています。AI-OCRで読み取りやすい様式への変更も進み、紙中心の対応は少しずつ肩身が狭くなっていきます。

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ポイント裏を返せば、e-Taxやクラウド会計で日頃からデータをきれいに整えている会社ほど、KSK2時代には有利になります。デジタル対応は「面倒な義務」ではなく、余計な疑いを招かないための守りでもあります。

6「調査」だけではない——増える書面・電話での確認(行政指導)

KSK2時代の変化を考えるうえで、もうひとつ知っておきたいのが「行政指導」です。税務署や業務センターから届く「お尋ね」「申告内容の確認」といった文書は、法律上の税務調査ではなく、行政指導という位置づけのものが多くあります。データ分析で「確認したい点」が機械的に抽出しやすくなるKSK2時代には、いきなり調査に入るのではなく、まず書面や電話で確認する、という接触が今後さらに増えていくと考えられます。

ここで重要なのは、行政指導への対応しだいでペナルティ(加算税)の重さが大きく変わることです。行政指導を受けて自主的に申告をやり直した場合の加算税は、調査を受けてから指摘された場合に比べて大幅に軽くなります。

申告のやり直しのタイミング 過少申告加算税(申告済みで不足があった場合) 無申告加算税(申告していなかった場合)
行政指導を受けて自主的に修正申告・期限後申告 かからない(0%) 原則5%に軽減
税務調査を受けてから修正申告・期限後申告 原則10%(一定部分は15%) 原則15%(金額に応じて最大30%)

つまり、行政指導の文書が届いた段階で誠実に対応し、誤りがあれば自主的に正すのが、金銭的にも最も傷が浅い選択です。逆に、お尋ね文書を放置すれば、「回答のない先」として調査に発展するリスクを自ら高めることになります。

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ここに注意「調査ではないなら無視してよい」というのは最も避けるべき対応です。行政指導には回答の法的義務はありませんが、無視すれば調査への移行を招きやすく、調査で指摘されてからでは加算税の軽減も受けられません。文書が届いたら内容を確認し、判断に迷う場合は顧問税理士に相談したうえで、期限内に対応しましょう。

7中小企業の社長が今から備えるべきこと

では、具体的に何をしておけばよいのか。特別な裏技は必要ありません。むしろ、当たり前のことを当たり前に整えておくことが、KSK2時代の最大の防御になります。

備えること なぜ効くのか
会社と個人のお金を明確に分ける 役員報酬・貸付金・私的経費の混在は、税目横断の照合で最も指摘されやすい。公私の線引きを普段から徹底する。
数値が動いた理由を説明できるようにする 売上・利益率・経費の大きな変動は、理由を記録しておけば「不自然」ではなくなる。異常値そのものより説明の有無が重要。
証憑(請求書・領収書等)を整理して残す 現場での即時確認に備え、聞かれてすぐ出せる状態にしておく。紙とデータの両方で保管が安心。
e-Tax・クラウド会計でデータを整える 読み取りやすい形で正確に申告することが、余計な確認・照会を減らす。
税務署・業務センターからの文書に早めに対応する お尋ね等の行政指導の段階で誠実に対応すれば、加算税が軽減される。放置は調査移行のリスクを高めるだけ。
迷う処理は顧問税理士に都度相談する 期ズレや経費判定など、判断に迷う取引こそ後で問題になりやすい。その都度確認が最善。
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ポイントKSK2への対応は、結局のところ「日頃の記帳と申告をていねいにしておく」ことに尽きます。あわてて何かを変える必要はありませんが、公私の区別変動の理由の記録、この2つは今日からでも意識しておく価値があります。

8まとめ:KSK2時代は「日頃の整え方」で差がつく

2026年9月に稼働するKSK2は、AIによる選定・税目横断のチェック・現場からのリアルタイム接続によって、税務調査の精度とスピードを大きく引き上げます。脱税をしていなくても、公私の混在や説明のつかない変動があれば「確認が必要な先」として浮かびやすくなる——これがこれからの時代の現実です。

同時に、調査の手前にある「行政指導」での確認も増えていきます。ここで誠実に対応できるかどうかが、加算税の負担にも、その後の税務署との関係にも効いてきます。とはいえ、過度に恐れる必要はありません。やるべきことは、日頃の記帳・申告をていねいに整え、届いた文書には早めに対応し、迷ったら専門家へ相談すること。むしろこれを機に経理を整えておけば、いざ調査が来ても慌てずに対応できます。

KSK2で変わる税務調査のポイントを1枚で振り返る図解
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KSK2時代の税務調査対策は、宮地開税理士事務所へ

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