令和8年度(2026年度)の税制改正は、「強い経済」の実現に向けた設備投資・賃上げ支援が一つの目玉です。中小企業の社長にとっては、いまある資産の買い方・賃上げの進め方が直接変わる内容がいくつか含まれています。
この記事では、中小企業に影響の大きい六つ——少額減価償却資産の40万円未満への拡充、賃上げ促進税制の見直し、新設の特定生産性向上設備等投資促進税制、研究開発税制の強化、インボイス制度の経過措置の見直し、そして防衛特別所得税の創設を、実務目線で整理しました。
なお本記事は、成立した令和8年度税制改正(財務省「令和8年度税制改正の解説」)に基づいています。適用時期や個別のあてはめは会社ごとに異なるため、実際の適用は顧問税理士にご確認ください。
1まず全体像:中小企業に効く4つのポイント
細かい改正は多岐にわたりますが、まずは中小企業の社長が押さえておきたい四つを一覧にしました。
| 項目 | 改正のポイント | 適用時期の目安 |
|---|---|---|
| 少額減価償却資産 | 取得価額基準が30万円未満→〈40万円未満〉に拡充(年間合計300万円まで) | 令和8年4月1日以後取得分 |
| 賃上げ促進税制 | 大企業向けは廃止、中小は維持。教育訓練費の上乗せ措置は廃止 | 令和8年3月末〜順次 |
| 特定生産性向上設備等投資促進税制(新設) | 大規模投資に即時償却又は税額控除7%(建物等は4%) | 令和11年3月末までの確認分 |
| 研究開発税制 | 「戦略技術領域型」を新設(控除率40〜50%)。国外委託研究は控除を制限 | 令和8年度〜順次 |
| インボイス経過措置 | 小規模個人事業者に3割特例(令和9・10年分)。免税事業者からの仕入れ控除は段階縮減 | 令和9年〜令和13年9月末 |
| 防衛特別所得税(新設) | 所得税額に税率1%の付加税。復興特別所得税は1%引下げ | 令和9年1月〜 |
このうち前の五つは主に法人・事業者の話、最後の防衛特別所得税は個人(社長ご自身や従業員)の所得税の話です。以下で順に見ていきます。
2少額減価償却資産の特例が「40万円未満」に拡充
取得価額が一定額未満の資産を、購入した年にまるごと経費にできるのが、中小企業者等の少額減価償却資産の特例です。今回、その基準額が引き上げられました。
| 取得価額基準 | 30万円未満→〈40万円未満〉に引き上げ |
|---|---|
| 年間の上限 | 合計300万円まで(変更なし) |
| 従業員要件 | 常時使用する従業員500人以下→〈400人以下〉に厳格化 |
| 適用期限 | 令和11年(2029年)3月末まで3年延長 |
| 適用開始 | 令和8年4月1日以後に取得した資産から |
3賃上げ促進税制の見直し(大企業は廃止・中小は維持)
賃上げをした企業の法人税を軽くする賃上げ促進税制は、企業規模ごとに扱いが分かれました。
| 区分 | 見直しの内容 | 適用期限 |
|---|---|---|
| 大企業向け | 適用期限を待たず廃止 | 令和8年3月31日で廃止 |
| 中堅企業向け | 適用要件・控除率を見直した上で廃止 | 令和9年3月31日で廃止 |
| 中小企業向け | 制度は維持。ただし教育訓練費の上乗せ措置は廃止 | 令和9年3月31日まで適用 |
すべての区分で教育訓練費による上乗せ措置が廃止されます。中小企業は制度自体は残りますが、この上乗せ(10%)がなくなる分、適用できる最大の税額控除率は45%から35%に下がります。教育訓練費を前提に控除を見込んでいた会社は、計画の組み直しが必要です。
4【新設】特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)
国内の高付加価値な設備投資を後押しするための新しい減税です。全ての業種が対象で、大規模な投資について即時償却と税額控除の選択適用ができます。
| 対象者 | 青色申告法人(経済産業大臣の確認を受けた計画に限る) |
|---|---|
| 投資額要件 | 取得価額の合計が35億円以上(中小企業者等は5億円以上) |
| 収益要件 | 投資計画の年平均の投資利益率15%以上が見込まれること |
| 優遇内容 | 即時償却 又は 税額控除7%(建物・建物附属設備・構築物は4%) |
| 控除の上限 | 当期の法人税額の20%を上限(一定の場合3年繰越し可) |
| 適用時期 | 改正産業競争力強化法の施行日〜令和11年3月31日に確認を受け、確認後5年以内に事業供用した資産 |
5研究開発税制の強化(戦略技術領域型の新設)
国家戦略として重要な分野の研究開発を強く後押しするため、「戦略技術領域型」が新設されます。既存の措置とは別枠で、高い税額控除率が設定されているのが特徴です。
| 対象分野 | AI・量子・半導体・バイオ・宇宙など、国が定める戦略技術領域 |
|---|---|
| 控除率 | 試験研究費の40%(認定研究機関との共同・委託研究は50%) |
| 控除の上限 | 当期の法人税額の10%を上限(超過額は3年間繰越し可) |
| 位置づけ | 既存の一般型・オープンイノベーション型とは別枠の措置 |
6インボイス制度の経過措置の見直し
インボイス制度をめぐる二つの経過措置——小規模事業者向けの特例と、免税事業者からの仕入れに係る控除——が、それぞれ見直されました。
(1)小規模な個人事業者への「3割特例」
これまでの2割特例(納税額を売上税額の2割にできる措置)の終了後も、小規模な個人事業者については、納付額を売上税額の3割とできる措置がさらに2年間(令和9年・令和10年分)講じられます。
(2)免税事業者からの仕入れに係る控除の段階的縮減
免税事業者からの仕入れについて控除できる割合は、最終的な適用期限を2年延長した上で、次のように段階的に縮減され、令和13年9月末で終了します。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 〜令和8年9月末 | 8割控除 |
| 令和8年10月〜令和10年9月末 | 7割控除 |
| 令和10年10月〜令和12年9月末 | 5割控除 |
| 令和12年10月〜令和13年9月末 | 3割控除(その後は控除なし) |
7防衛特別所得税の創設(所得税額に1%上乗せ)
防衛力強化の財源確保のため、新しい付加税として防衛特別所得税(仮称)が創設されます。社長ご自身の所得税にも、会社の源泉徴収実務にも関係します。
| 課税の仕組み | その年分の基準所得税額(所得税額)に税率1%を乗じた額を上乗せ |
|---|---|
| 課税期間 | 令和9年1月から |
| 復興特別所得税との関係 | 同時に復興特別所得税の税率を1%引下げ(足元の家計負担が増えないよう配慮) |
| 復興財源への影響 | 復興特別所得税の課税期間を令和29年まで10年延長し、総額を確保 |
8まとめ:自社に効く改正を、今のうちに見極める
令和8年度の改正は、少額減価償却資産の拡充のようにすぐ使えるものから、大型投資向けの新制度、研究開発やインボイス、個人の所得税にかかるものまで幅広く及びます。自社にどれが効くかは、規模や投資計画によって大きく異なります。
特に設備投資や賃上げは、期首の計画段階で動いた方が有利なケースが多くあります。決算直前では選択肢が限られることもあるため、早めに一度、自社の計画と照らし合わせてみましょう。
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本記事は、公開時点の法令・通達および国税庁の公表資料にもとづく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務判断・助言を行うものではありません。実際の取扱いは、事実関係や適用時期によって異なります。
法令等は改正される場合がありますので、ご判断にあたっては必ず最新の情報をご確認いただき、顧問税理士等の専門家にご相談ください。本記事の内容にもとづいて行われた判断・行為により生じたいかなる損害についても、当法人は責任を負いかねます。
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