
「AIを経理に使えないか」というご相談が、この1年で目に見えて増えました。ただ、これまでは実用にするのが難しい領域でした。会計データをCSVに出力して、AIに貼り付けて、質問する——この手間が毎回かかるため、たいてい続かないのです。
その前提が2026年に変わりました。マネーフォワード クラウド会計が公式のMCPサーバーを提供したことで、AIツールから会計データを直接参照できるようになったためです。CSVの出力も、貼り付けも要りません。
MCPとは何かという基本から、実際にどこまでできるのか、そしてセキュリティをどう考えるべきかまでを、なるべく専門用語を使わずに整理します。
1MCPとは何か——AIと会計ソフトをつなぐ「共通の差込口」
MCPは Model Context Protocol の略で、AIツールと外部のサービスをつなぐための共通ルールのことです。難しく聞こえますが、コンセントの形を統一するようなものだと考えてください。形が同じなら、どの機器でも挿せば動きます。
これまでは、AIに会計データを見せようとすると人間が仲介する必要がありました。データを出力して、ファイルを整えて、貼り付ける。MCPは、この仲介役を不要にする仕組みです。AI側が必要なときに、直接会計ソフトへ問い合わせて答えを取ってきます。
| これまで(CSVを渡す方法) | MCP連携を使うと |
|---|---|
| 会計ソフトからCSVを出力する | 出力作業は不要 |
| ファイルを整えてAIに読み込ませる | AIが必要なデータを自分で取りに行く |
| 期間や条件が変わるたびに出力し直す | 「今度は前期の数字で」と伝えるだけでよい |
| 手元のファイルが最新か分からなくなる | 常に会計ソフト上の現在の数字を見る |
| 1回あたり数分の準備が毎回かかる | 準備は最初の接続設定だけで済む |
22026年3月、全プランで公式提供が始まった
マネーフォワードは2026年3月26日、クラウド会計のリモートMCPサーバーを全プランで提供開始しました。それまでは公認メンバー制度の上位ランクにある士業事務所向けに限定されていたもので、この日から一般の利用者にも開かれた形になります。
| 提供開始 | 2026年3月26日(リモートMCPサーバー・APIを同時公開) |
|---|---|
| 対象 | 全プランが対象 |
| 費用 | クラウド会計・確定申告を利用していれば、MCPの利用に追加料金はかからない |
| 方式 | リモート型。自社にサーバーを立てたりソフトを入れたりする必要がなく、AIツール側に接続設定をするだけ |
| 対応AIツール | Claude Desktop、Claude Code、Claude Cowork、Cursor、Gemini CLI、Microsoft 365 Copilot Cowork |
※ 当事務所ではClaudeをメインで活用しております。
重要な点は、マネーフォワード自身が公式に提供しているということです。会計データは会社の中でも特に機微な情報です。素性の分からない仲介ツールを挟まずに済むことは、導入判断の前提条件だと考えています。
なお、マネーフォワード側は今後の予定として、再認証の自動化や、参照できるレポートの拡張を挙げています。まだ完成形ではなく、これから広がっていく段階だと考えておくのが正確です。
接続の手順そのものは、マネーフォワードの公式サポートページに最新の案内があります。画面や認証の仕様は更新が早い領域ですので、実際に設定される際は下記の公式ページをご覧ください。当事務所でも、顧問先には公式の手順に沿ってご案内しています。
3MCP連携で「できること」と「できないこと」
「AIが会計ソフトを操作する」と聞くと、何でもできてしまうように感じられるかもしれません。実際には、できる操作はきちんと決まっています。ここを押さえておくと、期待値も不安も適正な水準に落ち着きます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 取得(読み取り)できるもの | 事業者情報、会計年度の設定、仕訳の一覧と個別の仕訳、勘定科目、補助科目、取引先、部門、税区分、残高試算表、推移表、入出金明細の一覧 |
| 登録・更新できるもの | 仕訳の新規作成/仕訳の更新/入出金明細の作成の3つ。ここだけが書き込みにあたる |
| 現時点で想定されていないもの | 決算書そのものの出力や、申告書の作成といった最終成果物の生成。あくまで会計データの参照と入力が中心 |
表のとおり、MCP連携の主役は「読み取り」です。書き込みができる範囲は限られており、しかもAIツールによってはその3操作に対応していない場合もあります(Microsoft 365 Copilot Cowork 経由では、この3つの登録・更新操作は行えません)。
4社長の立場で何が変わるのか
抽象的な話ばかりでは掴みにくいと思いますので、実際にどんな聞き方ができるのかを挙げます。いずれも、これまでは人が手を動かして集計していた作業です。
| やりたいこと | AIに頼む内容の例 |
|---|---|
| 月次の状況をざっと掴む | 「先月の損益を前年同月と比べて、大きく動いた科目を教えて」 |
| 気になる仕訳を見つける | 「今期の仕訳から、前期には無かった新しい取引先や、金額が突出している取引を挙げて」 |
| 決算の着地を見る | 「4月から9月までの実績をもとに、今期の着地見込みを試算して」 |
| 資金の流れを確認する | 「入出金の月別推移を出して、資金が減っている月の原因を分析して」 |
| 取引先ごとの状況を見る | 「売上上位10社と、その構成比の前期からの変化を整理して」 |
ポイントは、会計の知識がなくても日本語で聞けば答えが返ってくることです。「なぜ下がったのか」と重ねて聞けば、内訳を見て候補を挙げてきます。経理担当者や税理士に依頼していた集計を、社長が自分のタイミングで確認できるようになる——月次資料が届くのを待たなくてよくなる、というのが実務上いちばん大きな変化です。
5当事務所での使い方——月次・決算・報告の3場面
当事務所でも、日常の業務にこの仕組みを組み込んでいます。一例として、次の3つの場面でAIを活用しています。
(1) 月次の入力チェック
毎月の仕訳を一件ずつ目で追うのは、件数が増えると限界があります。前期と比べて新しく出てきた取引、通常と桁が違う金額、科目の付け方が前月と変わっているもの——こうした「気になる仕訳」を先に洗い出しておき、そこから人の目で確認していく流れにしています。全件を見るのではなく、見るべきところを絞る使い方です。
(2) 決算見込みの試算
期中の実績から通期の着地を推計する作業は、これまで手作業でExcelを組んでいました。月次の推移を読み取らせて推計の下地を作り、そこに決算整理の見込みを加えていく形にしたことで、作成時間が大きく短縮されました。早い段階で着地が見えれば、納税資金の準備も節税の検討も余裕をもって進められます。
(3) 月次報告資料の下ごしらえ
社長にお渡しする月次資料も、数字の集計部分は自動化しています。空いた時間を「その数字をどう読むか」の検討に回せるようになり、打ち合わせの中身が報告から数字を踏まえた次のアクションの検討にシフトチェンジしていきました。
6セキュリティと権限——導入前に決めておく5つのこと
会計データをAIにつなぐと聞いて、まず気になるのはここだと思います。結論から言うと、リスクの中心はAIそのものではなく、権限の渡し方と社内の運用ルールにあります。順に整理します。
(1) 導入前に決めておく5つのこと
| 確認すべきこと | 考え方 |
|---|---|
| 誰の権限でデータを見るのか | 利用開始時にアプリポータルで権限を設定し、そこで付与した範囲でしか操作できない。見せる必要のない範囲は渡さない |
| 誰が接続設定をできるのか | 接続の準備には管理コンソールの全権管理権限が必要。担当者を限定し、退職時にはアカウントとあわせて見直す |
| 書き込みをどう扱うか | 登録・更新に対応する操作もある。登録・更新は人が最終確認するという運用ルールを先に決めておく |
| 入力した内容が学習に使われないか | 利用するAIサービス側で、データが学習に利用されない設定・契約になっているかを必ず確認する。マネーフォワードの案内でも、データ収集を許可しない設定での利用が推奨されている |
| どの事業者につないでいるか | 複数の事業者を扱う場合、意図した事業者につないでいるかを都度確認する。取り違えは事故に直結する |
(2) 権限は「役割ごとに」分けて渡す
接続の準備には管理コンソールの全権管理権限が必要ですが、実際にAIから見えるデータの範囲は、アプリポータルで付与した権限で決まります。ここを一律にせず、役割ごとに分けておくと安全です。
たとえば、経理担当者には日常の入力と確認に必要な範囲まで、経営層には全社の数字まで、顧問税理士には関与する事業者のみ。「全員に全部」を避けるだけで、事故の可能性はかなり下がります。
(3) 学習に使われない設定になっているかを確認する
いちばん心配されるのがこの点です。利用するAIサービス側で、入力した内容がモデルの学習に使われない契約・設定になっているかを、導入前に必ず確認してください。法人向けのプランでは学習に利用しない扱いが標準になっていることが多いものの、サービスやプランによって条件が異なります。マネーフォワードの案内でも、データ収集を許可しない設定での利用が推奨されています。
当事務所でも、クライアントの会計データを扱う環境については、学習に利用されない設定であることを確認したうえで運用しています。ここは「たぶん大丈夫」で進めてよい部分ではありません。
学習に使われない設定になっているかどうかがわからない場合は、AIに「入力内容をモデルの学習に使われないようにしたいんだけど、どうしたらいい?」と質問してみましょう。
(4) 事故が起きやすい場面を先に知っておく
| 起きやすい場面 | 先に打っておく手 |
|---|---|
| 複数の事業者を扱っていて、接続先を取り違える | 作業の冒頭で、どの事業者につないでいるかを必ず確認する。関与先が複数ある会社・事務所では最も多い事故 |
| 担当者の退職後もアカウントが生きている | 退職時のチェックリストに、会計ソフトのアカウントとAIツールの接続解除を入れておく |
| 「便利だから」と社内に一気に広がる | まずは経理と経営層に限定し、運用ルールを固めてから範囲を広げる |
| AIの回答をそのまま社外資料に転記する | 社外に出す数字は、会計ソフト上の帳票と突き合わせてから使うと決めておく |
| 取引先情報やパスワードといった機密情報を、そのままAIに渡してしまう | 連携範囲のデータは貼り付け不要・認証情報は渡さない・貼る資料はマスキングする——この3点を社内ルールに書いておく |
いずれも、技術というより運用の話です。逆に言えば、ここを設計しておけば、業務システムを1つ増やすのと同じ管理の延長で扱えます。
7クラウド会計でなければ難しい理由
この仕組みは、クラウド会計だからこそ成立しています。理由は単純で、データがインターネット越しに参照できる場所にあるかどうかの違いです。
社内のパソコンにインストールされた会計ソフトの場合、データはそのパソコンの中にあります。AIから参照するには外部から接続できる仕組みを別途用意する必要があり、中小企業が自前で構築するのは現実的ではありません。
つまり、AIを会計に活かそうとした時点で、クラウド会計であることがほぼ前提条件になります。会計ソフトの選定において、これまでになかった判断軸が一つ増えた、と考えてよいと思います。
もっとも、すでにインストール型で問題なく回っている会社が、これだけを理由に急いで乗り換える必要はありません。ソフトの入れ替えを検討するタイミングが来たときに、この観点を選定基準に加えていただければ十分です。
8まとめ:入口はできた。次は「何を任せるか」
MCP連携は始まったばかりで、できることも今後さらに広がっていくはずです。現時点でも、これまで人が半日かけていた集計や抽出が短時間で終わるようになっており、実務への影響は小さくありません。
一方で、判断は人がするという原則は変わりません。AIが出した数字をそのまま使うのではなく、確認したうえで意思決定に使う。この使い分けができれば、経理の時間の使い方は確実に変わります。
当事務所でも、会計・税務の領域だけでなく、様々なルーティン業務にAIを活用しています。また、リサーチなどのインプット作業にはGemini Notebook、プレゼン資料などのアウトプット作業にはClaudeといったように、作業内容によって複数のAIを使い分けながら、日々試行錯誤しております。
「うちでも使えるのか」という段階のご相談でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。

AIを会計にどう組み込むか、一緒に整理しませんか
AIの活用は、これからの経理体制を左右します。東京・宮地開税理士事務所が、実際の活用方法から運用ルールづくりまでご一緒に整理します。まずは無料相談へお気軽にどうぞ。
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